ボクはのら犬
今日は久しぶりに児童書の紹介をします(最近サボり気味でしたので…本当はたくさん紹介したい本があるのですが!)。
岡野薫子さん作(実業之日本社のち講談社文庫 刊)『ボクはのら犬』―…すべての子ども達に、いや、子どもさんだけでなく、大人の方にも手にしていただきたい名著!※しかし残念ながら今は廃刊になっているようで、中古で買うか、図書館で見つけるしかないようです(あとは、「わたる」に来れば読めます…笑)。
…自分が好きだと思った本は「全世界の人に読ませたい」となるのは読書好きの性とも言えますが…。大げさでなく、とても大切なことを教えてくれる本です。「動物愛護」とか「命の大切さ」とか、そういうことじゃない…。勿論、それもあるとは思います。けれども、この「ドスン」と重石を落とされるかのような心への衝撃は、先の言葉だけで表現しても、どうにも「違う」ような気がしてならないのです。
私がこの小説と出会ったのは小学校低学年の時。寝る前に、今は亡き母から毎晩少しずつ読み聞かせしてもらったのがはじめです。続きが気になって、どんどん先を読んでもらいたいけれど、いつもキリの良いところで「今日はここまで。おやすみ」となってしまう。でもだからこそ、寝る前に「クロ」に会えるあの時間は尊く、忘れがたい思い出となりました。
またその後、自分ひとりでも、何度も読み返す愛読書となるのですが、読んでもらった時と、自分独りだけで読むのとでは、また違う感覚が襲うのです。独りの時は何とももの悲しく、そして感情が高ぶって「怒り」が先立つといいますか…。
そう、このお話は「腹が立つ」のです!
許しがたい!と思ってしまう。
でも、それを話し過ぎるとネタバレになってしまうので、本のレビューは難しい…笑。
タイトルからして「野良犬」の話なんだろうなぁ~というのは想像がつくかと思うのですが、主人公の「クロ(犬)」は、はじめから「のら犬」だったわけではありません。自分の意思とは関係なく、のら犬になってしまうのです、大好きだった主人、いや友だちと思っていた「よしゆき君」という少年に捨てられて…。
よしゆき君も、最初はクロのことを可愛がります。子犬の時はころころしていて可愛い。そしてクロは賢くて自慢できる犬だったから。
けれども、彼のお母さんは雑種犬のクロを好ましく思っておらず、ある日、真っ白な血統書つきのスピッツ犬を買ってきます…。はい、不穏です。捨てられるまでの展開が何となく予想つくかと思いますが、そのエピソードはぜひ本編を読んでいただければ…。
いや~可哀想な犬の話なんて読みたくない!と、犬が好きな人だと思うかもしれません。けれども、このクロのひたむきさ、たくましさは、ただ「可哀想なのら犬」で終わらないので安心してください。
確かに涙なしには読めないですし(笑)、ショックで、悲しくて、どうしてだろう?と理由が分からずその場にうずくまるクロに感情移入し過ぎると「腹が立つ」のですが、怒濤の勢いで読めてしまいます。流れるような文章が美しいです。読みやすい。
子ども達にもこのような小説を読むことで、「何だか心がざわざわする」という感覚を味わってもらいたいと思います。そして読み終わった時に、ただ「人って冷たいな」と思うのではなく、「自分だったら」どうするのかを考え、「人以外の生き物の気持ち」にも想いを馳せるようになる、そんな小説ではないかと思います。
終盤がフィクションなのかノンフィクションなのか?と微妙に戸惑う構成になっているのですが、作者さん自身とクロとの触れ合い・語り合いが描かれているラストはかなり痺れます。必見!
ペットブームと言われてから久しいですし、家で犬や猫を飼うご家庭も少なくないと思うのですが、生き物を「飼う」ということは、彼らと家族になることと同義で、「共に生きる」と捉えた方が良いのだろな、であれば「捨てる、手放す」などという悲しい発想が生まれるわけはないのだから…と思わずにはいられません。
この作品を読むことで、ペットにも人と同じ心があるのだと言うことを、多くの子ども達に実感してもらいたいです。
復刊して欲しい児童書ナンバー1です!