小さな学習塾「わたる」~子ども達の自立と向き合う~

ADHDやLD、自閉症スペクトラム、アスペルガー等、生来より何らかの学びづらさを持つ子ども達の学習・生活支援を行う小さな学び舎「わたる」。その塾を経営するきつねが日々のことをぽつぽつ呟くブログです。

海のアトリエ

絵本の紹介です。
以前からいろいろな所で紹介されていて、読みたいなーと思っていた作品です。「海のアトリエ」(堀川理万子・作/偕成社)。
あれです、帯にある紹介文を読んだだけで自分が好きな作品だと分かる! あ、自分が、というだけで、実際、塾の子たちでこの作品を気に入るというか、突き刺さったー!となる子はあまりいないように思いますが…。読み手を選ぶでしょう。


そうそう、その帯の紹介文(の一部)は、「海が見えるアトリエで、絵描きさんと過ごした1週間」です。
海が見えるアトリエ……いい。もうこれだけでいい(何)。


冒頭、少女とその祖母との会話からこの物語は始まります。海の見えるアトリエで絵描きさんと1週間を過ごしたのは、この少女の祖母。祖母が子どもの頃の大切な思い出を孫娘に語って聴かせる、という体で、このお話は進みます。


ちなみに、特に詳細な記述はありませんが、昔、このおばあちゃんは不登校だったようです。「ちょっといろいろ、いやなことがあって」としか書かれておらず、その後このおばあちゃんが学校へ復帰したとか何とか、そういうことはどうでもいい感じで書かれてありません。
しかしこの最初の一行だけで、「この子は何か心に抱えているものがあるのだな」というのは読者に伝わります。ただ単に、夏休みのうちの1週間を、海の見えるアトリエを持つ知り合いの所へ行って「ヒャッホー!」とバカンスする話…でないことは明白です。
いやでも、意外とヒャハーってな感じには見えましたけれど(え)。作風は落ち着いていますが、私的にはヒャハーな1週間に見えました。終始楽しそうだから。そこがまた良き。


とはいえ、この少女(祖母)と絵描きさん、終始べったりだったわけではありません。
絵描きさんにもお仕事がありますし、少し構ってもらい、少し放置される感じ?
そう、何と言いますか、少女と絵描きさんとの距離感が抜群なのです。恐らく少女は、家に帰った後、この絵描きさんに頻繁に連絡を取る…ということはしていないと思います。ただ、「ちっちゃなころからすきだった」と言っている通り、大好きな憧れの女の人なのは間違いなく、絵描きさんは絵描きさんで、この子のことを心に留め、お互い心のどこかでいつも繋がっている…という感じです。そんな関係性が本当に素敵で! こんな女の人に会いたいし、自分もこんな人になりたい!と思えます。
静かで海のさざなみしか聞こえない絵本(海の近くにいるな~と感じられる素晴らしさ)。その静けさも、またたまりません。


それから、2人で近くの美術館へ行った時のエピソードも好きでした(あまりネタバレしてはいけませんが…)。
少女が「つらそうに見える」と感想を漏らした彫刻に、絵描きさんは「そうね。内面が感じられる顔だよね。すばらしいよね」と言うところがあるのですが、それに対して少女が、「そうか、つらそうでもすばらしいのか」って思うんです。このシーン、もうグッときて鳥肌! 
つらそうでもすばらしい。
ここで少女は何かとても大きいものを掴んだのではないかと思えます。こういう、人の感想を聴いて、それを自分の中に落とし込んで人として成長を遂げるって、めったにない経験だと思うんですよね。その短くも貴重な日々が本当に愛おしく感じます。絵本って偉大だ。そして改めて素敵なお話だなと感じられた1冊なのでした。


最近は「わたる」でも絵本を借りる生徒さんが少しずつ増えてきましたが、これも誰か借りてくれると良いなぁと思っています。


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