小さな学習塾「わたる」~子ども達の自立と向き合う~

ADHDやLD、自閉症スペクトラム、アスペルガー等、生来より何らかの学びづらさを持つ子ども達の学習・生活支援を行う小さな学び舎「わたる」。その塾を経営するきつねが日々のことをぽつぽつ呟くブログです。

ひみつのきもちぎんこう

久しぶりに児童書の紹介。
今回は、小学校低学年の課題図書にも指定されている、「ひみつのきもちぎんこう」(ふじもとみさと・作/田中六大・絵 金の星社 刊)について書きます。


……もう、大好きです。大げさでなく、泣ける(笑)。
いや~…。恐らく、大方の人は泣かないと思うのですけど、歳を取ると涙もろくなるせいか…初読の時、知らず知らずのうちに涙が滲み出ました…。何だかうまくは言えないのですが、こういう、純真な子どもの心の機微が生き生きと描かれている本って、読んでいて胸がきゅーんとするのです。いい子。主人公も、ここみちゃんも。ついでに、主人公のゆうたと遊びたくてちょっかいをかけるりくくんも、多分いい子(多分て)。


ざっくりと話の概要を説明しますと、主人公のゆうたが、初登場時は、「めちゃめちゃ嫌な奴」なのです。
ちょっと行動の遅い子に意地悪を言う、女の子の落とした本を足蹴にして知らん顔する。「本当はそんなことしたくないはずなのに」ってナレーターがフォローするのですけど、当のゆうたは、どうして自分がそういう行動を取ってしまうのかが分からない。


そして、そんな「嫌な奴・ゆうた」の心の中には、「いじわる」「ふしんせつ」「じぶんかって」の気持ちがたくさんで、その気持ちは黒いコインとなり、「ひみつのきもちぎんこう」に貯金されていきます。
……もうこの設定だけで大好きですよ(笑)。こういう「心」を直球のテーマにしてくる話が個人的に好きなので。


で、ゆうたのブラックな言動は、「本当はそんなことしたくない」わけですから、「うそ」ものなんです。でも、その「うそきもち」のまま、誰かに意地悪したり、自分勝手なことをし続けると、最終的には黒コインで通帳はいっぱいとなり、本人の中にあったはずの「いい心」も、遂には空っぽになってしまう、と。そういう恐ろしい仕組みなのです。面白い。←
でもそうですよねぇ、「本当はしたくなかった」と言ったって、実際には悪いことしまくっているわけです。だから「それは本心じゃないんです、嘘なんです」などと言っても、ずっとそればかり続けていたら、いつしかそっちが本物になっちゃうことは十分にあり得る。本来あったはずの「いい心」は、知らず知らずに枯渇する。上手いな~作者さん。唸ってしまいます。
しかも、そういう恐ろしい事態を、ヘンな顔した(失礼)「番頭さん」とやらが、これまたおかしな関西弁で警告するんですよね。かる~い調子で。だから、下手したら、警告が警告にならず、意味が分からない子には、「ふーん」で終わってしまいます。


まぁこの本の場合は、お話なので(笑)、ちゃんと主人公のゆうたは危機感を抱いて「どうしたらいいんだ」って悩んでくれるんですけどね。


人の気持ちは目に見えない。だから当然、他人の気持ちをくみ取るのは難しい。
そして実は、他人どころか自分自身の気持ちのことも、やっぱり目には見えないから、分からないことがたくさんある。ましてや、未熟な子どもだと余計に大変で、「どうしてあんなこと(意地悪)を言ってしまったんだろう」とか、「どうしてあんなこと(乱暴)をしてしまったんだろう」と不思議に思うことはあっても、自分でもどうしようもできなかったりする。


それを、この本では「番頭さん」というナゾの存在が、ゆうたの「分からないけれどやってしまった失敗」を「黒コイン」という目に見える形で突きつけてきて、あと1個、黒コインが貯まったら通帳はいっぱいになる、そうしたらあんたのいい心は空っぽになるからねと通達してくることで、ゆうたは初めて実感するわけです、「何だか怖い」と。心は目に見えないけれど、コインという物体を通すことで分かりやすくしてくれているんですね。あんたのあの時の行動は意地悪な黒コイン1個分だよ、という風に。


そしてさらにここで「好きだ」と思うのは、「ぼくはどうしたらいいの」と不安で泣きそうになるゆうたに、番頭さんが一言。
「あほっ、自分で考えてみ」
何と、答えをあげないんですねー。


何回も言うようですが、大好きです、こういう話(笑)。
ちなみに、ゆうただけでなくて、ここみちゃんというクラスメイトの女の子にも通帳があるわけですが、この子のエピソードがこれまた素敵なのです。是非読んでもらいたいです、お勧めです。
さくさく読めてしまうので、子どもたちも自分でぱっと読めてしまいますし、親御さんや学校の先生などが読み聞かせをしてあげるにもちょうど良い長さで、なるほど課題図書だわーと納得してしまう、そんな一冊ですね。


低学年対象とありますけれど、高学年が読んでもいいし、何なら中学生が読んでもいいと思います。こういう本って、読んだ後は少なからず「じゃあ、自分に気持ちの通帳があるとしたら、一体どんなワードの、何色のコインが貯まっているだろう?」と考える機会になると思うので。読んだら、ちらっとでも考えると思う。全く考えないで読んじゃう子には、大人の側で促してもらいたいです(笑)。


ちなみに、「わたる」では「気持ち言葉」を学習プログラムに積極的に取り入れています。自分の気持ちを表すのに、まずもってそれらの言葉を知らないと、議論するのもなかなかに難しいですからね。言葉は人に与えられた宝だと思うので、大切に学んでもらいたいと思っています。


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