小さな学習塾「わたる」~子ども達の自立と向き合う~

ADHDやLD、自閉症スペクトラム、アスペルガー等、生来より何らかの学びづらさを持つ子ども達の学習・生活支援を行う小さな学び舎「わたる」。その塾を経営するきつねが日々のことをぽつぽつ呟くブログです。

いやいやえん

福音館書店から、中川季枝子さん作・大村百合子さん絵の「いやいやえん」は、初版が1962年発行とのことで、前回紹介した「おしいれのぼうけん」よりさらに古い!連続でたまげてしまいました。


こちらの本も今なお144刷くらい?再版されているようですが、全く古さを感じない。不朽の名作ですね。この本、我が塾「わたる文庫」の一員として迎え入れる際、改めて読み直してみたのですが、自分でもびっくりするくらい笑ってしまいました。笑いの連続です。子どもの頃は全然笑えなかったと思うんです。むしろ私はこの本に登場してくる「しげるちゃん」を好きになれなくて、むしろイライラした記憶があります。「もう何でしげるちゃんってこうなの!」みたいな感じで。


このお話も、前回の「おしいれのぼうけん」同様、舞台は保育園。しげるちゃんは確か年長さんかな?
また、これまた「おしいれ~」と同じく、しげるちゃんが通う「ちゅーりっぷほいくえん」にもきちんきちんとした先生がいて、悪さをするしげるちゃんをいつもきちんと叱ります。そして「おしいれ~」では「押し入れ」というお仕置き部屋がありましたが、ちゅーりっぷほいくえんにも、約束を破った子を閉じ込める「ものおき」がある(笑)。ものおきは暗くて嫌な臭いがするので、閉じ込められた子はすぐに「忘れていた約束」を思い出して反省します。
うーむ、一昔前って、悪さした子は暗い場所に閉じ込めるって定番の罰だったのでしょうか。今はあんまりそういうの聞かないように思いますが(よく聞くペナルティーは、ゲームをやらせないとか動画を見せないとかかな?)。


しかし、子どもたちが時に「約束」を忘れてしまうのも仕方がありません。何せ、ちゅーりっぷほいくえんには、約束が70個くらいあるのです!
その中で、最も大切なお約束は、


・なげないこと
・ぶたないこと
・ひっかかないこと


の3つ。その他は、


歯を磨く/顔を洗う/手を洗う/爪を切る/一人で洋服を着る/並ぶ時は、前の人を押したり横入りしない/誰とでも手をつなぐ/好き嫌いをしない/洋服やクレヨンを食べない/遊んだ後は、片付ける/呼ばれたら「はい」と言う


まだまだありますが、「なあんだ、かんたんなことばっかり!」と、本には書いてあります。いわゆる社会通念、一般常識ってやつですね。
これって別に、ちゅーりっぷほいくえんにいなくても「これくらいはやって欲しい」と大人は思ってしまうと思うのですが、何せ保育園生ですから、これら大人にとっては「当たり前のこと」も、彼らにとっては当たり前ではないかもしれない。中には、おうちで教えられて「なあんだ、かんたんなことばっかり!」「当たり前じゃん!」と思う子もいるかもしれませんが、知らない子は知らないわけですから。そこを、この保育園では「園でのお約束」としてきっちり教えようと言うわけです。
で、先生が、特にこれらのお約束を守れない「しげるちゃん」に向かって、


「しげるちゃん! おかたづけのときに、すもうをしていいのですか?ものおきで、かんがえていらっしゃい」
「しげるちゃん、まどにのっていいのですか? ものおきで、かんがえていらっしゃい」
「しげるちゃん、おともだちを、けっとばしていいのですか?ものおきでかんがえていらっしゃい」


と、至極冷静に言い募るのですが、これがもう私の笑いのツボに入ってしまって(何でだろう…笑)。いや、こんな風に「淡々」と「事実を告げながら」「その行為は許しません」って態度を取るのって、結構難しいですよ…。しかし先生は感情を荒立てることなく、冷静にビシリ、バシリとしげるちゃんを注意するわけです。
当のしげるちゃんは、それで「分かった」とは答えるものの、基本的に全然改善される兆しはないのですけど…。昔の私は、子ども心に、こんな風に勝手なことばっかりするしげるちゃんが嫌だった。この本に出てくる「しげるちゃんって、いやあねえ」なんて言っちゃうおませな女の子のように、当時の私はしげるちゃんが好きになれなかった。
しかしそのしげるちゃん、確かに自己中ってやつだし、物もよく壊すので、仲間はずれとかにも合うのですが、本人はそれに対してあんまり悲しんでいる様子はないんですね。我が道を行きながら、何だかんだで、するり、ぬるりと、群れの中に入っていっているのです。なんで、大人になって読み返すと、このあたりの彼の様子に、「しげるちゃん、めっちゃたくましいな?」と感心してしまうところが多々あって、読んでいて凄く新鮮です。


しかもですよ、この本のタイトルである「いやいやえん」。ここが登場する最終章で、これまた大人になった私がしげるちゃんを見ると、びっくりするのです。


あんまり言うことを聞かないしげるちゃんに対し、お母さんは「ちゅーりっぷほいくえん」の先生が勧めてくれた「いやいやえん」へと、彼を連れて行きます。
しげるちゃんはこの時点で、お母さんが用意してくれた服を着たくないとか言うし、お弁当も、こんなの嫌だ、サンドウィッチが食べたい!とか言うし、昨夜お父さんがお土産に買ってきてくれた車の玩具も、色が赤だったからというその一点だけで「取り替えてきてくれ!」と我が儘を言う…。
しかも、あんまり嫌だ嫌だと泣き続けるので、お母さんが、そんなんだったらいつまでも泣いていらっしゃい!と言ったら、「いやだい、なくのなんかいやだい」と泣く(笑)。とりあえず全部に逆らう。
この展開に、「こ、このやろう…!」とならないお母さんも保育園の先生にもびっくりします、立派過ぎて。私ならもう言っちゃう。君ね、いい加減にしなさいよ?って。ため息交じりで言っちゃいますよ。
ここで何が1番許せないって、お父さんのお土産(恐らく車が欲しいと彼が言っていたから買ってきてくれた)と、お母さんが作ってくれたお弁当にケチをつけて嫌だ嫌だ言うところに、「コラー!!」ってなります。……え?「わたる」のような学習塾を経営している専門家さんが、そんな発言をしてしまっていいのかって?……一般的にはよくないと思うのですが、私も血の通ったひとりの人間として、ダメでしょそれはって思ったことははっきり言います。だって私は喋る人間サンドバッグですし(笑)。


そんなわけで、この最終章、大人になった私でも「しげるちゃん!お前さん!!」ってなっているのですが、そこで先述した「でも感心した」ところに戻るのですが。
私がしげるちゃんのどこに感心したか?
それは、「いやいやえん」での、彼のまっとうな感覚です。


あんまりオチを書きたくないのですが、「いやいやえん」の先生である「おばあさん」は、基本的に子ども達が「嫌だ」と言うことには、「じゃあやらなくていいよ」と無理強いしない。そして放置。お迎えの時間まで好きに過ごしな、ただし、お迎えの時間にならないと扉は開かないから、出て行くことはできないよって、それだけ。人が使っていたおもちゃを勝手に使う子がいても、それを返すのが嫌だという子は返さなくていいとか無茶苦茶です(笑)。
ただ、お片付けはしろってな感じで、それを嫌がる場合は、「じゃあおもちゃは捨てよう」ってなる。へえ~、ここだけはルール化されているんだ?となるわけですが、それでも子ども達は片付けようとせず、「おばあさんが片付ければいいじゃん」という謎理論を突きつけてくる。
その後どうなったかは…まぁ本を是非読んでもらいたいわけですが、何にせよ、無茶苦茶なことばっかりやったり言ったりする子たちを見て、自分だってそう大差ないはず(笑)のしげるちゃんが、「ここには、来年小学校に行ける子はいないな」って言うんですよ。
他にも、片付けの時間に遊び出す奴がいるとか、人のおもちゃ取り上げるとか何なん?とか思ったり…。いやいや、多分にあなたも、「ちゅーりっぷほくえん」ではそんな子どもだったでしょ?と思うのですが、しげるちゃんは「いやいやえん」のたった半日の間に、実に沢山のことを学ぶわけです。


もう本当に…面白い!と唸ってしまう。恐らく子どもの頃は、こういうところに注目していなくって、ただ単にどこか不思議なことが起こるストーリー展開に引きつけられて読んでいたと思うのですが…。やはり、絵本というのは、子どもの頃に読むだけでなく、印象に残っていたものはもう一度大人になって読むと、新たな発見があって二度オイシイのかもしれませんね。


「わたる文庫」、着々と充実させていってます。学習塾の入会を検討されている方がいらっしゃいましたら教室の見学も受け付けておりますので、ぜひ下記ホームページからお問い合わせ下さい。


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