小さな学習塾「わたる」~子ども達の自立と向き合う~

ADHDやLD、自閉症スペクトラム、アスペルガー等、生来より何らかの学びづらさを持つ子ども達の学習・生活支援を行う小さな学び舎「わたる」。その塾を経営するきつねが日々のことをぽつぽつ呟くブログです。

おしいれのぼうけん

絵本のレビューを書きたいと思った時、真っ先に浮かんだ作品です。この間、気まぐれに「せんたくかあちゃん」の感想を先に書いてしまったので、紹介第一号にはなりませんでしが…(笑)。


刊行はなんと1974年!今なお多くの人々に愛されてロングセラーとなっているせいか、全く古さを感じないというか、そんなにも前に出版された本だったのか!?と驚いてしまいます。ふるたたるひ先生とたばたせいいち先生作、童心社より出版されています。
この絵本、もちろん、小さなお子さんの読み聞かせにも良いと思うのですが、小学生なら自力で読めると思うので、普段、動画やゲームに夢中の子どもさんがいたら、ぜひ手に取ってもらいたい、そんな風に思う一作です。絵本にしては文字が多くて長編なので、普段本を読まない子だと、目にした一瞬は抵抗があると思うのです(「長いよ!」みたいな…笑)。ですが、導入からとにかく引き込まれる!そして何となく(?)怖い!そう、この絵本は怖いのです。子どもが大好き(??)な「恐怖」が表立ったテーマですから。しかしだからこそ、一度波に乗ってしまえば最後まで一気読み…ということも夢ではありません。因みに、怖いからと言って夜眠れなくなるとか、後々尾を引くようなラストでもないので、その点も安心です(ネタバレになるのでオチは書きませんが…恐怖が恐怖として終わらない素晴らしさと言いますか…)。


子どもの頃って…いや、大人でも。「怖いもの」ってありますよね。昔はよく「地震・雷・火事・オヤジ」なんて言われて…大人でも地震をはじめ、自然災害は怖いです。またそれ以外でも、虫が怖いとか高い所が怖いとか、或いは人間が怖いとか!?多かれ少なかれ、人によって怖いものってあると思うのです。勿論「お化け」といった、目に見えないものなんかも。怖いものって世界にたくさんある。


で、この絵本の舞台である「さくら保育園」に通う子どもたちにも、怖いものがあります。しかも2つ。大好きで通っている保育園の中に、2つもあるのです。


それは、「おしいれ」と「ねずみばあさん」です。


―…という導入があるのですが、これがまた「やる~!」と唸りたくなる語り方というか、紹介の仕方なのですよ。絵の見せ方も何やら怖い。子ども達の怖いもの?何だろう?と思っている傍からその2つが紹介される、その書かれ方が怖い!のです(私だけ…?しかし当初読んだ時、それを仄かに暗い鉛筆画で見たからか、余計に怖かった)。


押し入れは、その保育園ではいわゆる「お仕置き部屋」として使われているので、子ども達にとっては恐怖なわけです。今だったらちょっと問題になってしまうのかもしれませんが、悪いことをしても謝らない子がいたら、先生がその子をひっつかんで、真っ暗で狭い押し入れに閉じ込めちゃう。そして、「ごめんなさい」を言うまで出してくれない。これは怖い!
…という話を、以前勉強を教えていた男の子に何かのきっかけで話したら、「ぼくは狭くて暗い所が好きだから、それじゃ全然罰にならないね」とニヤリとした顔を思い出すのですが(しかも「ドラえもん」リスペクトで押し入れに寝ていたらしいし・笑)。…まぁそんな子も中にはいるとして。
「何となく怖い場所」って、想像力が豊かな子どもさんだと特にあると思うわけですが、その絵本でも、押し入れの中にある板の木目模様が人の顔みたいで怖い!と怯えちゃったりする。まったく「あるある~」です。いちいち共感しながら、その子どもの恐怖をページをめくる度、一緒に味わってしまう。


また、もうひとつの恐怖、「ねずみばあさん」がこれまた恐ろしい。ねずみばあさんというのは、その保育園の先生がよくやってくれる人形劇に出てくる人形で、ねずみを操る怖い妖怪ババア(言い方)。ドスの利いた声色でばあさん役をやる先生に、子ども達はごくり…と息をのんで劇を眺める、と。先生の演技力が試されますが、さくら保育園の先生は芸達者なので、あたかもねずみばあさんは実在するかのように子ども達に捉えられている。


で、そんな中、ある日、喧嘩が高じていけないことをしてしまった男の子2人が、大嫌いで怖いその押し入れに閉じ込められてしまいます。しかし、なかなか意地を張って謝らない、謝れない。そうこうしているうちに、未知の扉が開いて、いるはずのなかった第二の恐怖、ねずみばあさんが現れ、ばあさんの国まで現れ、2人は狭い押し入れから、さらに暗いねずみ王国で信じられない大冒険を繰り広げていく…と、実に壮大なストーリー展開となっております。


大人になった今読むと、ねずみばあさんもねずみの国での大冒険も、子どもたちの想像力が生んだ夢物語…と一言で解釈できちゃうのですが、それはそれで、あれだけの大冒険を汗びっしょりになってした2人が、その後そのストーリーを生き生きと園の子ども達に聞かせてあげたり、その冒険で培った相手を思いやる気持ちだったり、協力することの大切さだったりを知って最終的に人間的にも成長したり(誇張にあらず)。仮にあれらが想像の産物だったとしても、ただの泣き疲れて押し入れで見た夢だったとしても、「想像」って大事だなぁとしみじみしてしまいます。結構今って与えられることが多くて、自分から何かを生み出したり、話を作ったりって、あんまりする機会もないかもしれない…とも思いますし。そうでもないかな?今も子ども達はいわゆる「ごっこ遊び」に興じて、自分を自分とは違うヒーローに見立てたり、周りの事象から別次元の物語を考えたりして、冒険したりしているのかな?


因みに私は幼稚園生の頃、林の中にあった枯れ葉を魔法の指輪と見立てて、魔法の国に紛れ込んだ自分を想像し、独り林でぶつぶつ遊んでいたことがあります(友だちいないんかい・笑)。絶対何かの本の影響で、そういう遊びをしていたと思うんですよね。
絵本からそういう想像の翼をはためかせて、ちょっと「別の世界へ行ってくる」というのも、子ども時代にしかできない素敵な経験だと思います。この絵本を読むとそういう体感ができるので、夏休みに暇で暇でしょーがない!という子どもさんがいたら、ぜひ勧めてみてはいかがでしょうか。
あと何気に、主人公の子ども達だけでなく、保育園の先生の葛藤なんかも描かれていて芸が細かいので、もちろん、大人の方にもお勧めです。


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