小さな学習塾「わたる」~子ども達の自立と向き合う~

ADHDやLD、自閉症スペクトラム、アスペルガー等、生来より何らかの学びづらさを持つ子ども達の学習・生活支援を行う小さな学び舎「わたる」。その塾を経営するきつねが日々のことをぽつぽつ呟くブログです。

ADHD関連の本③

今回で最後となります、「ADHDの子どもたち」(岩坂英巳 編著/合同出版)を読んだ感想と、本書の紹介その3です。
その②で紹介をしたものの続きで、今回も後半第3章の「感覚統合療法」に関するF君の事例に触れたいと思います。


「刺激に反応しすぎて衝動的に行動するF君 7歳」
F君はテンションがいつも高くて、とにかくじっとしていられない。
「急に大声を出したり、どこかへ逃げて」しまうようです。…私も過去出会ったことがあります。決して「取って食ってやる!」などと思っているわけでもないのに、おもむろに近づいただけで、ササーッ!!と、避けるように移動してしまう子が…。何か不穏なものを感じるのか、或いは自分がしていることを「怒られる!?」と思って警戒したのか。
いずれにせよ、そうして露骨に距離を取られると、された方は気持ちも落ち込むわけですが、その子の友だちが私とリラックスして話すところを見せてくれることにより、「どうやら大丈夫らしい/こいつは無害らしい」と分かってもらえ、逆に今度はぐっと距離が「むしろ近すぎ!?」となったのでした。


この事例のF君も、短い紹介文の中にそのようなタイプの子に近いものを感じました。
その他の詳細として「少し身体が触れただけで怒り、他の子に暴力を振るう」こともある反面、「スキンシップを好み、他者にギュッと抱きしめられることを求めます」ともあったからです。
さらに作業療法場面では、前回登場したE君とは異なり、「ブランコなど揺れる遊具にはふれるだけで乗ろうとはしません」とのこと…。いろいろな刺激に反応してしまうので、傍から見ると突拍子もない言動を取ったり、神経過敏の印象を受けるものの、大量の刺激情報に翻弄されて気持ちは常に不安定であり、だからこそ本当は人に甘えたい、頼りたいという様子もうかがい知ることができます。


本書では、F君がたくさんの刺激に対して「これは何だろう」と感じる前に、情緒的に反応(混乱、逃避、攻撃)していることが見られるため、「情動反応を抑制し、自律神経系を安定させる役割がある圧迫や固有受容覚の刺激を提供」することを計画し、触覚の過反応に対しては「探索を通して、原始的(触ったときに情動的に反応する)よりも探索系(触った時に『なんだろう?』と探る)を優位に働かせるように」していくことを目指したとありました。


…字ヅラだけだと、「それって具体的にどういうこと??」となると思うのですが、具体的にはセラピー場面において、作業療法士さんがセラピーボールと自分の間にF君の身体を挟みこんで「圧迫」します。このぎゅうぎゅうとした感触にF君は喜んで、「もっとやって」と何度も要求したそうです。
また、「ぶら下がり・よじ登りなどの固有受容覚が強く入力される活動」、例えばジャングルジムやロッククライミングなどで「『この辺りかな』と手足で探索できるようになる遊具が有効だったようです。これらの活動を楽しんでできるようになってから、F君は情動的な反応が減り、多動も落ち着いてきたとありました。
確かに、刺激に即座に反応してしまうお子さんは、立ち止まって考えるというようなことがなかなかに難しい様子ですよね。そのため、まずは身体を使ってこのように「探索」させる機会を意図的に作ってあげるというのは、なるほど理に適っているように思えます。


学校や家庭の支援としては、まずこの過反応の原因である感覚刺激を減らすために、具体的には、


・蛍光灯を明るくしすぎない
・揺れるものを視野に入れない(先生の長い髪すら「揺れるもの」扱いでした!)
・ゴミ箱、トイレ、給食室の近くに席を配置しない
・毛布にくるまる、布団の下敷きになる、プールに入る、ダンボールハウスに入る


などが紹介されていました。これらの工夫は、すでに様々な学校さんで見かけることができます(支援級でも段ボールで覆われた狭い空間が教室の隅に置かれているのを見かけたりしますし)。
また、これも学校現場ではすでに意識されていることかと思いますが、「ぞうきんがけ」をする、「給食の食材を運ぶ」ことも推奨されていました。お掃除の時に机や椅子を引きずらずに運ぶ等も良いでしょうね。こうした「筋肉、関節の動きの感覚がしっかり感じられる活動を多くすると落ち着ける」からです。


本書では、その他にも多くの試してみて成功した!という事例があり、非常に読みやすいので、学校の先生や親御さんが試しに手に取ってみると、「そんなこと知っているよ」ということもありつつ、「あぁこれ、やってみようかな?」というものも、きっと見つかると思います。


3回に渡って紹介していきましたが、実はまだ積ん読状態の本が何冊かありまして…。
これらの中でまた感嘆したり、「なるほど~」と思えたものがあったら、またこちらで触れていきたいと思います(ちなみに「わたる文庫」の保護者様向けの本…今年中に増やすと決めているのにまだ全然です…。今年中には!何とか!増やします!)。


×

非ログインユーザーとして返信する