小さな学習塾「わたる」~子ども達の自立と向き合う~

ADHDやLD、自閉症スペクトラム、アスペルガー等、生来より何らかの学びづらさを持つ子ども達の学習・生活支援を行う小さな学び舎「わたる」。その塾を経営するきつねが日々のことをぽつぽつ呟くブログです。

ADHD関連の本②

前々回のブログに書きました、「ADHDの子どもたち」(岩坂英巳 編著/合同出版)を読んだ感想と、本書の紹介その2です。


後半第3章では、ADHDの治療と支援について事例を交えて紹介されています。このうち2つの事例が特に「なるほどなぁ」と思ったので、簡単に紹介しますね。


ひとつ目の例には、「多動でじっとしているのが難しいE君」が登場します。
E君は授業中、離席が多く、いつも猛スピードで移動します。教室でも廊下でも、どこでも猛スピード。
さらにこのE君、作業療法士さんとブランコで遊ぶ際、もう十分揺れているのに、「もっと揺らせ」と要求し、その激しく揺れるブランコに乗りながら自分も身体を揺らします。そしてそこから落ちる!けれどもE君は楽しそうに笑っていて、本書では「落下を楽しんでいるようにも見える」とありました。


……この下りを読んだ時、本人は楽しそうだけれども、相手をしている大人からしたら冷や汗が止まらんよなぁ……と思いました。もし頭から落ちでもしたら大変です。
ただ勿論、本人は悪くないわけで、彼は「前庭覚(重力や加速度を感じる感覚)に問題を抱えていて、この感覚を「過剰に入力しようとする行為が多動となって現れている」と考えられました。


そこで、作業療法士さんはE君に、この前庭覚の欲求を満たしてあげるため、ブランコを思いっきり漕ぐ遊びや、トランポリンを力いっぱい跳ぶ遊びを促しました。E君はそれで20分ほども遊ぶと、欲求が満たされて落ち着いたそうです。


さらに、「前庭覚のON/OFF(「動」と「静」)が明確な活動の提供」として、「大きく揺れているブランコを止める活動」や、「トランポリンから地面に置かれたフラフープ内に飛ぶ活動」も行いました。すると、E君は段々とその「ピタッ」という「静」の感覚を理解して、着地時に身体を止めることができるようになりました。


また、「ゆっくり動く、慎重に動く、傾きや動きの違いを細やかに感じることを目的」に、「平均台渡り」や「揺れるはしご」(アスレチック場などによくある、縦横に編まれたロープによじのぼるやつです)、「頭の上におもりを乗せて運ぶ」などの活動も行うと、E君は「徐々に学校でも友だちと一緒に歩けるように」なったそうです。


ちなみに、学校や家庭でできる類似のトレーニングとして、「授業前に縄跳びやランニング」を勧める、授業中は先生に少し工夫してもらって「席移動できる活動を取り入れる」、遊びでは、前庭覚の「動」と「静」がはっきりした、「だるまさんが転んだ」などの活動も紹介されていました。…何気なく学校で行われていることや遊びが、実は感覚統合の学習にも繋がっているのだなぁ…と改めて思いました。


ところで、いきなり事例の紹介から入ってしまったのですが、この章では「感覚統合療法」について書かれていまして、つまり上記がその例なのです。


人は五感(視覚や聴覚等)からもたらされる情報を脳の中でまとめることによって、自分の思うように身体を動かします。つまりそれが感覚統合というわけですが、「感覚統合理論」では、この五感に「固有受容覚(筋肉、関節の動きの感覚)」と、今の事例で紹介されていた「前庭覚」も加えて、「行動、情緒、社会的発達を脳における感覚間の統合という視点でとらえ」、この視点を持つことで、「ADHD児の行動背景が理解できる」と述べているのです。


感覚統合療法は、アメリカのエアーズという人が考案したリハビリ法の1つで、彼の「セラピーは楽しくなくちゃ!」という考えのもと、「子どもが楽しくて主体的に挑戦してみたいと思える、内的動機づけにもとづいた『遊び』となるように介入し」、その成功体験によって自信をつけさせることを目的としています。


そのためには、「活動が子どもにとって簡単すぎず難しすぎない『Just right challenge (ちょうどよいレベルの挑戦)』となる必要」があると書かれていて、確かに確かに…と深く頷いてしまいました。


「わたる」はあくまでも学習塾ですし、セラピーや運動療法を行う場所ではないのですが、勉強だって遊びと同じところは多々あると思うんです。楽しくなくちゃ学ぶ意欲は培われないし、「学びたい!」という気持ちを育てるためには、その学習法は常に模索していかなくてはならない。
また、子どもはすぐに分かれば楽しいというわけではなく、とてつもなく難しいものに対して腰が引けてやる気をなくすのと同様、あまりにも簡単なものに対しても、「バカにするな!こんなの簡単過ぎてつまらない!」という風にもなると思うわけです。そういう意味で、この「Just right challenge」は、いつも子どもさんに合った教材を考えて作っている自分も座右の銘にしたいと思うものでした(余談ですが、普段の座右の銘は「継続は力なり」です)。


話が逸れてしまったのですが、要は、遊びや運動を通して、様々な感覚刺激を体感させることによって脳の活性化を促し、それらの感覚を意識していくことができると、ADHDのお子さんも、環境が与えてくる膨大な量の情報(やそれを受けて抱く感覚)に圧倒されず、その場に適応していくことができるのではないか…、という主旨の章でした。


もうひとつの事例も紹介しようと思ったのですが、またしても長くなってしまったので(自分の感想が邪魔でしたね・汗)、またそれは次回に書けたら書こうと思います。


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